東北学院大学 工学部 機械の同窓会です。

2604a特別寄稿

特別寄稿 「お耳の国のイチカ」上梓にあたって

機械知能工学科 濱西伸治

 2019年より機械知能工学科でお世話になっております.東北大学大学院を修了した2006年から宮城高専(現仙台高専)で教員生活をスタートさせましたが,当時,同校の重鎮として活躍されていらっしゃったのが,庄司彰先生(第1回生)でした.先生のご担当だった「機械力学」の年30回の講義を,年間を通して見学・聴講させて頂いただけなく,教員としてのあり方なども懇切丁寧にご指導頂きました.現在の機械TG会へと続くご縁に感謝申し上げる次第です.

 私の専門分野は「聴覚のメカニクス」であり,それらの知見を「スポーツ・福祉・医療」に応用する研究を行っています.もしも,機械TG会の皆様が私の研究室を見学すると,機械油の匂いではなく,観葉植物の香りが漂い,部屋の真ん中には防音室があり,なぜかアメフトのヘルメットや,たくさんの人体・骨格模型が並ぶ光景に,「本当に機械の研究室?」「機械なのに聴覚?」という疑問が湧いてくる様子が容易に想像できます.

 しかしながら,聴こえの仕組みは,空気の振動である音が,固体(鼓膜や小さな骨)の振動となり,さらにこれらの振動が蝸牛内の液体(リンパ液)の振動となるため,これらの一連の振動の伝播の理解には,機械工学,特に機械力学が重要な基礎となります.しかも,これらの振動のスケールは「nm」の世界なので,機械が得意とするミクロな視点の考察が非常に大切なのです.現在,国内における「聴覚のメカニクス」の研究者は,私の恩師であり,この研究領域のパイオニアである和田仁(ひろし)東北大学名誉教授をはじめ,国内でも数えるほどしかいません.

 学部3年生から,かれこれ30年近くに及ぶ研究生活の中で,何度かテレビやラジオなどのメディアへの出演機会があり,そのたびに非常に反響が大きく,研究成果を論文や学会などを通じて研究者に向けて伝えるだけでなく,一般の方々に伝えていくことの大切さを実感しておりました.今回,出版社とのご縁もあり,「かねてからの私の想いを実現するのにまたとない機会だ」と執筆を始めることにしました.

 ただ,「聴覚のメカニクス」という聞き慣れないテーマと,「どんなに難しいことでも,子供にも分かるように情熱を持って伝えたい」という,教員としての私の信念とのバランスをとりながらの執筆は,想像以上に難しい作業となり,加筆や推敲を重ねながら,2026年1月の出版まで,実に3年の月日を要しました.

ABC

 本書は,おばあちゃんに耳掃除をしてもらっていた少女イチカが,いつの間にか「お耳の国」へと迷い込み,耳の奥へと冒険する物語です.聴覚器官の奥まで進んでいく道のりを五つの場面(章)に分けて構成し,複雑な構造や仕組みを,冒険の視線で理解してもらうため,聴覚器官の各部位を擬人化し,少女イチカとの会話を通じて理解させた後,聴覚の機能や耳にまつわる様々なエピソードを紹介しています.

 ところで,メインの読者として設定している中高生だけでなく「小学生にも冒険を楽しんでもらいたい」という私の想いから,本書では数式を一切使っていません!おまけに,冒険の世界観を表現するため,少女イチカや擬人化した部位は,全て自分でイラストを描きました.

 このような私の想いと,ミネルヴァ書房の心強い協力のおかげで,現在,全国の書店で販売されております.また,想いが届いたのか,各地の図書館でも採用いただいるようで,「聴覚のメカニクス」の記念すべき広報になったと自負しています.母校である富山県の中学校・高校をはじめ,前任校である仙台高専の図書館にも献本させていただきました.

 「東北学院大学の機械には,こんなユニークな研究をしている人がいるんだ!」と,本書を読んだ多くの子供たちが近い将来,本学科に集い,聴覚のメカニクス研究の拠点として研究成果を世界へ発信していくことが,私の大きな夢です.

 機械TG会の皆様におかれましては,ぜひカワイイお孫さんへのプレゼントに1冊いかがでしょうか.また,「最近,ちょっと聴こえが気になってきたな…」とお感じの方も,ぜひ少女イチカと一緒に「お耳の国」を冒険してみませんか?

『お耳の国のイチカ』
 濱西伸治 著
 刊行日 :2026年1月20日
 出版社 :ミネルヴァ書房
 ページ数:200ページ
 ISBN  :9784623099962
 価 格 :2,200円(本体2,000円)

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