東北学院大学 工学部 機械の同窓会です。

1603私の趣味@蒸気機関車の製作(第3回)

私の趣味

蒸気機関車の製作を始めて(第3回)

工学部 機械工学科
伊藤信義 (第4回生)

はじめに
 前回(さんえる第43号)、では蒸気機関車の製作を始めた経緯、必要な工作機械類の選定と購入、機械の大きさに合わせた木製架台の製作及び工作室への搬入方法等を述べ、最後に旋盤用の切削用各種バイトの使用に際し、試行錯誤の上、スローアウェイバイトを使用したことを述べている。

1. 旋盤用各種バイトについて
実際に旋盤で使用した、超鋼合金刃付(ろう付け)バイト及びスローアウェイバイトについて述べる。超硬合金とはWC(タングステン・カーバイト)の微小な粉末に、Co(コバルト)またはNi(ニッケル)の粉末を結合剤として加え、これを高圧で固形にしたあと、高温で焼結したものである。

図1 超合金刃付(ろう付け)バイト
図1 超合金刃付(ろう付け)バイト

図1のようにバイトの端に赤色、青色及び黄色の3色が塗られているが、これは材料を切削した場合、排出される切りくずの形状により、それぞれK種、P種及びM種と決められているもので、K種は、WC(タングステン・カーバイト)を主成分とし、粘り強さ(靭性)に優れ、機械的な衝撃に強く、非連続形の切りくずの出る鉄系金属(ねずみ鋳鉄)や非鉄系金属(銅・真鍮・アルミニウム)に使用される。P種はK種をベースにTiC(炭化チタン)、TaC(炭化タンタル)を多く加えることにより、熱的損傷に優れ、かつ高速切削時の耐摩耗性を高めたものである。連続型の切りくずが出る鉄系金属(鋼・鋳鋼・可鍛鋳鉄)に使用される。M種はK種とP種の中間の性質で、K種をベースにTiC(炭化チタン)、TaC(炭化タンタル)を適度に加えることにより、機械的にも熱的にも損傷に優れている。連続型、非連続型の切りくずが出る工作物(鋼・鋳鋼・鋳鉄・ステンレス鋼)に使用されている。私が主に使用している超硬合金刃付きバイトは使用分類記号がK10、P20、M20である。目的や使用用途に合わせたいろいろな形状のバイト(図1参照)が成形され、使用されている。この分類はJIS B 4105に掲載されている。
一般的に超鋼合金刃付(ろう付け)バイトは購入後、すぐには使用出来ない。それは先端の切れ刃の部分が欠けるのを防ぐ為、保護膜が施されている。

図2 スローアウェイバイト
図2 スローアウェイバイト

これを薄い鉄辺で剥がした上で、今度は、両頭グラインダーのWA砥石とGC砥石を使用し、シャンク部分はWA砥石で、切れ刃部分はGC砥石を使用し、切れ刃角度を研削する必要がある。この作業は実際に行って見て非常に難しく、私が研削し、旋盤で切削加工を試みたが、切れ味が思ったより悪く、切削面がザラザラであった。このような背景より、種々の専門書を購読したところ、特殊な技術を必要としなく、素人でもプロ並みの旋盤加工が出来きる、といった初心者にとって非常に使い勝手の良いバイトが図2に示すスローアウェイバイトである。このバイトは前回の第43号でも述べているが、シャンクと切れ刃(チップ)とが完全に独立していて機械的(微小ネジにて固定されている)に締結されている為、切れ味が悪くなったらチップのみを交換すれば、すぐに加工に取り掛かれる優れものである。実際に旋盤で使用してみると、加工品の表面はプロ並みの出来具合であった。
現在では数多くの種類のチップが市販されており、それに合うシャンクも揃っている。例えば私が使用しているものは、幅2.0mmの突っ切り用のチップ、直径3mmの丸チップ(図2右下の3本)、内径・端面切削用のジェットバー(図2の中央上の2本)等である。チップの価格は通常10個入りで4,000円から13,000円程度である。

2. 各種計測機器類について

図3 各種計測機器類
図3 各種計測機器類

 蒸気機関車の製作に限らず、ある部品を造り、それを組み立てていく場合、設計図に基づき部品一つ一つの寸法が正確に出来ていなければ組み立てが出来なくなる。したがって計測は非常に大事な作業の一つであり、当然、蒸気機関車の製作に際して作業に使用する計測機器は精密な物を使用している。図3の左上から下へ順にデジタル外側マイクロメータ、300㎜デジタルノギス、150㎜デジタルノギス、100㎜ノギス、200㎜デプスゲージ、右側の丸いゲージがデジタルダイヤルゲージ。                              右上に下側だけ見えるのが次葉の図4のデジタルハイトゲージである。このゲージは高さのある工作物にケガキを行う場合、定盤の上に工作物とハイトゲージをセットし、既定の寸法にデジタルゲージをセットの上で、工作物にケガキ線を入れる機器である。この他にもケガキを行う場合に使用する直線定規、スコヤ(直角定規)、鋼製コンパス、精密Vブロック、精密アングルプレート、箱型定盤、ケガキペンシル、マグネットベース(ダイヤルゲージ用)等を揃えている。

3.自作した治具類

図4 各種計測機器類(デジタルハイトゲージ)
図4 各種計測機器類
(デジタルハイトゲージ)

旋盤加工において各種車輪の加工は丸鋼を輪切りにしたものを3本爪チャックで固定し、最初、両側面を加工後、センター穴を開け、次にテーパシャンクドリルで車輪軸穴を開ける。その後、この軸穴を利用し、車輪の踏面を加工する。その際使用するのが、図5の下側にある7種類の治具(ヤトイ)である。機関車を組み立てていく際、数多くの小ネジを使用する。ネジの種類はM1.4、M1.6、M2.0、M2.5及びM4.0が大部分である。したがってこれらのネジを切るタップ(雌ネジ切り)、ダイス(雄ネジ切り)が必要であり、このネジ切り作業を旋盤を利用して行う為の治具が図5の上側の左二つと右端のものである。旋盤の移動芯押し台とドリルチャックを利用する為、ドリルチャック取り付け側がジャコブステーパを、芯押し台側にモールステーパをつけて製作している。これらの治具は設計図面がなく取り付ける相手側の構造を調べた上で、自分で設計し、製作する必要がある。このモールステーパはアメリカのモールスツィストドリル社が開発したもので、各種工作機械の多くのテーパとして、幅広く使用されている。日本ではJIS B 4003に規定されており、私が使用している比較的小さな旋盤の芯押し台のシャンクはMT3が採用されている。このテーパは傾斜角度が1.4376度に規定されている。同様にジャコブステーパはJISB 4634及びJIS B 6001に規定されており、旋盤あるいはボーリングマシンのドリルチャックに採用されている。私が使用しているドリルチャックはJT6で、テーパは傾斜角度が1.4858度に規定されている。これらの治具を自作する場合に問題になるのが、この角度である。

図5 各種自作治具類
図5 各種自作治具類

工場で使用している本格的な旋盤ではこの角度通り製作が可能であるが、私が使用している旋盤では、それだけの精度がなく、下一桁程度の角度に合わせるのがやっとである。もし、精密な角度を必要とする工作物を製作する場合には、丸鋼にスリットを設け、そこ必要な角度を計算した三角定規を挟み込み、それをチャックで固定した上で、刃物台にバイトを取り付け、その斜辺をなぞることで比較的正確な角度を得ることができる。
以上のようにバイト、計測機器及び治具類について述べてきてが、製作の基本については数十年前に学んだ機械設計法及び機械製作の教科書が役に立っている。次回は実際に車輪、車軸及び台車の製作過程について述べる。
(つづく)

powered by Quick Homepage Maker 5.1
based on PukiWiki 1.4.7 License is GPL. QHM

最新の更新 RSS  Valid XHTML 1.0 Transitional