東北学院大学 工学部 機械の同窓会です。

2401bノビコフ歯車から磁気歯車へ

ノビコフ歯車から磁気歯車へ

機械工学科 第1回生 鶴本勝夫

 昭和34年4月、東北学院高榴ヶ岡校舎が、仙台市の榴ヶ岡公園東側に隣接して設けられました。私の家(青葉区八幡町)とこの校舎との中間に宮城県立図書館があり、ほぼ毎日と云ってよいほど、帰校途中にこの図書館に立ち寄り、勉強?していました。実は白百合学園高や宮城学院高の女生徒らも来ていたので、彼女らの顔を見るのが第一の目的でした。
 宮城県立図書館にはA、B、Cの名称のついた三つの閲覧室がありました。ある時、眠気ざましにふと立ち上がり図書棚を見回していたところ、成瀬政男先生(東北大学工学部教授)の「歯車の話」(槙書店)が目に入り、中をめくると、かみ合い率や最小歯数問題が簡潔な数式で記されていました。インボリュート平歯車の場合、小歯車はラック(歯数無限大の歯車)とのかみ合いでは三枚となります。私はこれに興味をいだき「大学に入ったら、歯車の勉強をしよう」と目ざめたのです。そこで私は成瀬政男先生の著書「歯車」(岩波書店)を金港堂で注文したら、芥川龍之介の小説「歯車」が届いてびっくりしました。成瀬先生の「歯車」は、機械工学の専門書ですから、とんだ珍事となったのです。
 そんなことで私は歯車について独学で勉強を始めました。当時、歯車歯形については東北大学の成瀬政男先生、転位歯車については東京工業大学の中田孝先生、歯車の工作(歯切り)については九州大学の和栗明先生と、日本ではこの三名の方が歯車界をリードしていました。それぞれ学士院会員に推挙されています。
 私が大学2年生の時、機構学は東北大学科学計測研究所(科研)の松山多賀一先生が、非常勤で担当してくれました。松山先生は成瀬先生の一番弟子で、歯車では最も難しいとされる「ノビコフ食違軸歯車の研究」をしておりました。
 私はこのノビコフ歯車に関心を寄せ、松山先生の指導を受けました。東北学院大学工学部の第一回工学部祭の時に、「歯車展」の目玉として松山先生が開発した「ノビコフ食違軸歯車のかみ合いモデル」を展示しました。松山先生は「歯車便覧」の筆頭監修者になっています。松山先生は東北大学退職後、東京芝浦工大に招聘されました。
 少し専門的になりますが、ソ連邦で開発されたノビコフ歯車は、円弧歯形歯車で、小歯車が凸歯面の歯末歯面のみを有する歯車で、大歯車は凹歯面の歯元歯面のみを有する歯車です。歯スジかみ合い率を1以上とするため、歯幅が厚くなっています。因みにノビコフ歯車の名称は開発者エム・エリ・ノビコフ技師の名前に起因しています。
 日本では日立製作所亀有工場の保延誠技師が、ACPギアの名称で実用化を検討し、実際に新幹線の車輌に使用しました。保延技師のACPギアに関する博士論文については、先に述べた松山多賀一先生のもとに届いていました。
 私は一つの歯車の歯末に凸歯面、歯元に凹歯面を有する対称円弧歯形歯車について研究しました。ノビコフ歯車は軸直角断面で円弧歯形を有し、ウィルドハーバー歯車など、その他の歯車は歯直角断面で円弧歯形を有しており、以後、円弧歯形歯車を総称してWN歯車(Wildhaber-Novikov Gear)と呼んでいます。 
 私の研究のねらいは、汎用のインボリュート歯車歯切り工具(ホブ)で下切りし、ダイローラを用いノビコフ歯車に仕上げ転造するものです。ダイローラはホブ製作で有名な小笠原小型ホブ研究所(神奈川県足柄上郡)に依頼しました。学会では注目され、東北学院大学の名を知らしめることが出来たと思います。論文名は「ノビコフ歯車の仕上げ転造」。
 以上の研究は、私の上司でした青砥久仁夫先生が取り上げ、あたかも自分が行ったように、自分の功績と擬装したことは残念でした。救いは以上の経緯を教授らが承知し、青砥先生を教授に推挙することはありませんでした。
 私はこれを機に全く別の研究に転向し、歯面同士が直接接触しない「完全非接触型磁気歯車に関する研究」へと進み、博士号を取得しました。主査は電気工学科の菊地新喜教授、副査に機械工学科の斎藤秀雄教授、同松井正己教授、八戸工業大学の村上孝一教授(菊地先生の恩師)でした。
 磁気歯車に関する多くの研究論文は、応用磁気学会誌に掲載されておりますので、これを参照して頂ければ幸いです。磁気歯車は隔壁動力伝達用に応用され、宮城県大崎市のK・Kプロスパイン(旧松栄工機)で実用化されています。
 尚、私が試作した大型の実験装置一式を、本学機械工学科卒業生が教員として赴任している仙台市立工業高校(市工)へ寄贈しました。また、私の母校である東北学院榴ヶ岡高校(泉市)にも、コンパクトな動力伝達装置を寄贈しました。市工からは感謝状を頂き、当日「磁気歯車」の講話を致しました。

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